今日は棚からこのレコードを取り出して針を落としています
少しだけ時間を巻き戻したくなるときがあります
ドイツのポップスと聞いて、私が最初に思い浮かべるのは、NENAという名前のバンドです
1980年代に大ヒットした「ロックバルーンは99」
軽やかなシンセのリズムに少し切ない旋律、そしてどこか不思議な空気感
東西の冷戦の時代に生まれたこの曲は、ポップソングでありながらどこか影のある気配をまとっていました
当時の日本ではドイツの音楽といえば、このNENAの曲を思い出す人も多いのではないでしょうか

けれどレコード棚を眺めていると、ふと思い出したことがあります
この音楽の少し前、同じドイツでもっと斬新で奇抜な音楽が生まれていました
メインとして使われた楽器はシンセサイザーです
当時この電子楽器は、業界的にもまだ珍しい存在でした
1960年代の音楽シーンで、キーボードといえばハモンドオルガンが中心
特にロック界では鍵盤でもうねりを出すために開発された、レスリースピーカーの音を思い浮かべる人も多いでしょう、いわゆる回転スピーカーです
ドアーズやディープ・パープルなどの名だたるハードロックのバンドも、その音の背景はオルガンが彩りを加えていたというわけです
実はシンセサイザーという楽器は当時すでに存在していましたが、とても大きく操作も難しい機械だったようです
部屋全体がその楽器の部品で締められていて、その装置の前に立ってケーブルを差し替えながら音を作る
まるで実験室のような楽器で、当時のコンピュータと似ていますね
その音は映画音楽や実験的な音楽で使われることはあっても、ポップスの中心に出てくることはまだほとんどありませんでした

そんな時代に、電子音そのものを中心にした音楽を作ろうとしたグループがいました
それが西ドイツで結成されたクラフトワークです
1970年代に突如として現れた、シンセサイザーを駆使するとても不思議なグループです
当時の世界ではロックが音楽の中心でした
ギターが鳴り、ドラムが叩かれ、人間の演奏が音楽を作る
それが当たり前の時代でした
ところがクラフトワークは、まったく違うことを始めました
シンセサイザーの聞きなれない音に電子的なリズム
そして機械のような反復
人間の感情より、都市のリズムを音楽にすることを優先する
そんな発想でした
代表曲のひとつである、アウトバーン
高速道路を走る車のリズムを、そのまま音楽にしたような作品です
初めて聴いたとき、少し妙な曲だと思った人も多かったのではないでしょうか
けれどその不思議な電子音は、やがて世界の音楽に大きな影響を与えていきます
1980年代のニューウェーブやシンセポップ
そして後に生まれるテクノ
このコンピュータミュージックとも言われるテクノの始まりは、このドイツの実験音楽からスタートしたとも言えるでしょう
NENAのポップソングの向こう側には、そんな電子の歴史が隠れていたわけです
そしてその中心にいたのが、クラフトワークでした
次回はこの不思議なグループ、クラフトワークについて
もう少しゆっくりとレコード棚から取り出してみたいと思います


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